2023/10/17

ケリュにて

  






南フランスの奥地にある小さな村、ケリュに来てから3週間以上が経った。
死ぬほど気合いを入れた個展と本が同時に世に出た瞬間、つまり人生最大時速が出た直後に、この時間の流れが古代からほぼ変わっていない僻地にカットインしてきたわけだ。
最初、この急激なコントラストには我ながら焦った。フランス人の友達に聞いても皆「え、それどこ?」と言うような村の、12世紀に建てられた洞窟のような建物に荷物を下ろす。部屋にコウモリが飛んできた時は、「やべぇ」と声も出た。
しかしようやくこの場に馴染んできた。いや、むしろ心地良くなってきたので少しメモしておく。

ここにはDRAW internationalという、ドローイングに特化したレジデンスで、世界各地から集まった3~4名のアーティストがキッチンを共有して生活し、それぞれのスタジオで制作している。僕はここを拠点にして、色々な洞窟の中に入り、旧石器時代の壁画をスケッチして回っている。
フォアザック、コンバレル、フォン・ド・ゴーム、ラスコー、ペシュメルル、、、数万年前にかかれた無数の線たちが立体物としてそこにある。クマの引っ掻き傷を真似たような線、叩いたり刻んだり、動物の骨をストローのようにして顔料を吹き付けたり、両手をステンシルに使ったり、岩の膨らみを利用するなどのテクニックや、空間的な線の間合いのセンスには息を呑む。いやぁ本当にすごい。全く古くない。
それらにできる限り近づいて、ポケットに折りたたんだ紙にメモしていく。膨大な線の集合の中から、一瞬、自分が既に知っている線を目で追っていることに気づくとそれをやめて、目をリセットするように心がけた。何か、今まで自分がかいてきたものをものすごく反省したり、逆に勇気づけられたりもした。
それでスタジオに戻って何かをかいてみる。今までかいたことのない何か。こうやって自分の内側の線のアーカイヴを再編しているのだろう。こっちに来て、今までかいてきたものはまだ助走に過ぎないと確信した。それは安心することだ。
月末に帰国したら、なるべく群馬の個展会場に居たいと思う。
ポートレイトは友達になったウクライナ人アーティスト撮影