2020/01/08

ドローイング・オーケストラについてのメモ

鈴木ヒラクと大原大次郎による打ち合わせ@美学校, 東京(2019年11月29日13時-14時)
-

去年の夏、デザイナー、と言っていいのか、「文字の人」である大原大次郎が、東京の場末にある僕のスタジオに遊びに来てくれた。また別の「文字の人」であり書家の石川九楊先生の直弟子でもある、大日本タイポ組合の塚田哲也さんが連れて来て、意気投合、楽しい時を過ごした。そこでの雑談で、今回のイベントは着想された。

Invisibl Skratch Piklzという1990年代を代表するスクラッチDJ集団達は、大人数でターンテーブルをズラリと並べ、同時にレコードを擦りまくった。大原大次郎も僕も、彼らがやっていたことに新しい空間性の爆発的な萌芽というか、何か重要なヒントを感じ続けてきた。「レコードは書だ」と言ったのは石川九楊先生だが、スクラッチは「引っ掻く」だから、つまり彼ら(QBert達)は「書いて」いるのだ、しかも同時に。これをドローイングに置き換え、複数の「かき手」の同時にかく(描く/書く/掻く/欠く/画く)行為をミックスしたらどうなるのだろう?8人くらいの手元を書画カメラで撮影し、そこにマイクをつけて音も拾って、映像と音でミックスしたら?

この壮大な思いつきが、この半年間、膨大な準備/テスト/物流/書画カメラの買い占め、などをもたらした。時には書画カメラ8台に押しつぶされそうになったりもした。
これまで、2台の書画カメラを使用した対話型のイベント"Drawing Tube"は継続的に行ってきて慣れているのだが、全く異なるシステム構築が必要だった。が、映像の岸本智也の技術とアイデア、会場側の東京都現代美術館のサポート、そして8名の「かき手」のモチベーションによって、なんとか現実的に実験を行えそうなところまで漕ぎ着けた。

僕以外に、大原大次郎(タイポグラフィー)、カニエ・ナハ(詩)、西野壮平(写真)、ハラサオリ(ダンス)、村田峰紀(パフォーマンス)、やんツー(デジタルメディア)、BIEN(グラフィティ)、といった様々なバックグラウンドを持つ、可能性にあふれた「かき手」たちが集まるだけでも面白そうだ。
でもポイントは、単に突出した個性を並べて、ジャンルを越える、といったことじゃない。それらの手による行為が時間と空間の中で併走しながら、どのように呼応することができるのか?互いの関係性の中で、単に主体的行為の結果としての線を超えた、新しく大きなエコーを生み出せるか?という実験である。
今回僕はあまりかきませんが(ミックスするので)、この実験をぜひ多くの方に見届けて頂ければ嬉しい。