2023/10/31

ティム・インゴルドさんとの応答を終えて






昨日のティム・インゴルドさんとのドローイング・ダイアログは、豊かな時間だった。関係者のみなさんに心から感謝したい。
僕は同時通訳を介して聞き、日本語で話し、英語で書き、非言語の線を描く。これはちと難しい設定だったな、と序盤は感じたが、線が助けてくれた。ティムさんは枝やスプレーを使ったり、伸び伸びと描いて/書いてくれた。最終的にはお互い、インターメディアとしてのドローイングを通した対話を楽しんだ。即興ならではのスリルもあり、いい瞬間がいくつか生まれていたのでは、と思う。
ドローイングにおけるマークとラインの違いなどもっと踏み込んで話したかったが、それはまた次回に。
最後、ティムさんが「これからもコレスポンダンス(文通・呼応・応答)を続けよう」と仰ってくれた。それは祝福の言葉だ。綺麗事を言うつもりもないが、もう本当にバトルとかしている場合じゃないので、もっとコレスポンダンス=インスピレーションの交換をして、壁に穴を開けていこう。インスピレーション(inspiration)とエクスピレーション(expiration)は、スピリット(spirit)が出たり入ったりすることだ。そこに立場は関係ない。
昨日のことはまたゆっくり振り返りたい。いずれアーカイヴも何らかの形で出せるはず。
とにかく多くの方に、ティムさんが帯を書いてくれた僕の本の、最後の章「ドローイングと対話」を読んでいただけたら嬉しい。



















2023/10/17

ケリュにて

  






南フランスの奥地にある小さな村、ケリュに来てから3週間以上が経った。
死ぬほど気合いを入れた個展と本が同時に世に出た瞬間、つまり人生最大時速が出た直後に、この時間の流れが古代からほぼ変わっていない僻地にカットインしてきたわけだ。
最初、この急激なコントラストには我ながら焦った。フランス人の友達に聞いても皆「え、それどこ?」と言うような村の、12世紀に建てられた洞窟のような建物に荷物を下ろす。部屋にコウモリが飛んできた時は、「やべぇ」と声も出た。
しかしようやくこの場に馴染んできた。いや、むしろ心地良くなってきたので少しメモしておく。

ここにはDRAW internationalという、ドローイングに特化したレジデンスで、世界各地から集まった3~4名のアーティストがキッチンを共有して生活し、それぞれのスタジオで制作している。僕はここを拠点にして、色々な洞窟の中に入り、旧石器時代の壁画をスケッチして回っている。
フォアザック、コンバレル、フォン・ド・ゴーム、ラスコー、ペシュメルル、、、数万年前にかかれた無数の線たちが立体物としてそこにある。クマの引っ掻き傷を真似たような線、叩いたり刻んだり、動物の骨をストローのようにして顔料を吹き付けたり、両手をステンシルに使ったり、岩の膨らみを利用するなどのテクニックや、空間的な線の間合いのセンスには息を呑む。いやぁ本当にすごい。全く古くない。
それらにできる限り近づいて、ポケットに折りたたんだ紙にメモしていく。膨大な線の集合の中から、一瞬、自分が既に知っている線を目で追っていることに気づくとそれをやめて、目をリセットするように心がけた。何か、今まで自分がかいてきたものをものすごく反省したり、逆に勇気づけられたりもした。
それでスタジオに戻って何かをかいてみる。今までかいたことのない何か。こうやって自分の内側の線のアーカイヴを再編しているのだろう。こっちに来て、今までかいてきたものはまだ助走に過ぎないと確信した。それは安心することだ。
月末に帰国したら、なるべく群馬の個展会場に居たいと思う。
ポートレイトは友達になったウクライナ人アーティスト撮影