2017/12/30

2017年走り書きメモ

"Constellation #19" 1100 x 270cm / silver spray paint, silver ink, earth, acrylic, chinese ink on canvas / 2017 / installation view at Arts Maebashi (Gumma) photo by Kigure Shinya © Hiraku Suzuki



2017年を振り返れば、ここ十年の中で日本にいる時間が最も長い年だった。1歳から2歳になった娘の成長に、傍で目を見張りつつ、日々お絵かきセッション、絵本、ダンス、散歩やパズルセッションetcをしていたから、というのもある。しかし今年は、娘以外にも、今日本にいるからできた対談とセッションが特に多かった。ライブで一般公開した対話の相手だけでも、淺井裕介(アーティスト)、スガダイロー(音楽家)、ジェイソン・モラン(音楽家)、石川九楊(書家)、村田峰紀(アーティスト)、吉増剛造(詩人)、ハトリミホ(CIBO MATTO)、アブデルカデール・ベンチャマ(アーティスト)、今福龍太(文化人類学者)・・・彼らとドローイングを通して、文字通り手探りで辿っていった。ある境界線のようなもの。その境界線の地中に横たわる未翻訳の領域の鉱脈を発見できたことは大きな学びであった。同時にこの鉱脈があまりにも巨大で多岐にわたっていて、自分がいかに何も知らないかということも知ったが、もちろんそれは希望でもある。来年からも、また自分の手で触れる部分をひとつひとつ掘り出して、作品やプロジェクトの中で輪郭を与えつつ、少しずつ近づいていきたい。

2017年のメモ
1月
淺井裕介くんと対談@NADiff a/p/a/r/t。嬉しい初対面であった。
FIDインターナショナルドローイングコンテストでグランプリ受賞。
大分に10日間滞在。大分市中央通り線地下道における常設パブリックアート作品”点が線の夢を見る” を制作。地下道が極寒でハードな現場でボロボロになったが、温泉に入りながら、多くの人に支えられて、1/21に過去最大のパブリックアート作品が完成した。島田正道くんと記録映像を制作> https://vimeo.com/203550974
展覧会は永戸鉄也さんの個展がよかった。

2月
一人で雪山登山をして死にかけるも、氷の形から新作の着想を得る。
制作に明け暮れる。芸術祭「市原アートxミックス」のための、石とステンレスのふたつの彫刻作品制作で、千葉と行き来する。九十九里浜に宿泊するなど。
昨年山形で行なった吉増剛造さんとのセッションの記録本を作り始める。
展覧会はラスコー洞窟展@国立科学博物館がよかった。ライブはゆるふわギャング@アニエスベー銀座店がよかった。

3月
ポーラ・ミュージアムアネックス(銀座)にてグループ展「繊細と躍動」に出品。秋吉風人、中原一樹というベルリン時代で最も近所だった尊敬する友人のアーティストと一緒。
品川で海洋調査船TARA号に乗る。
大分市で講演。
国立科学博物館で筆石(graptolite)の存在を知り、衝撃を受ける。
千葉県市原市に毎週通って制作と展示の設営。永昌寺トンネルにてワークショップ。10人ほどでトンネルの壁面をフロッタージュする。石を彫って反射板を埋め込むなど。

4月
市原での展示「道路」がオープン。北川フラムさんの「立体が見たい」という言葉に応えるべく、チャレンジした展示であった。
山梨Gallery TRAXにて、グループ展「SIDE CORE -路・線・図」に出品。
熊本市現代美術館にて、グループ展「高橋コレクションの宇宙」に出品。
草月会館にて、スガダイロー、Jason Moran、田中泯のセッションを見る。田中泯さんが凄かった。
翌週、ロームシアター(京都)にてスガダイロー、Jason Moran、僕でセッション。ダイローさんとジェイソンがとにかく凄すぎて、楽しかった。遠藤水城くん、クリスが見に来てくれた。翌日、伊藤存さん、青木陵子さんと寺に行く。
カジワラトシオさんのレコード屋Hitozokuで空間現代のカセットテープを買う。
アーツ前橋で、また田中泯さんの踊りを見る。
娘がシュタイナー保育園に通い始める。家族で千葉を旅行。

5月
東京芸大大学院GA科にて2コマ授業。
島田正道くんと市原の記録映像を制作。
娘を初めて動物園に連れていく。映画「メッセージ」がよかった。

6月
彫刻作品「Warp」を市原湖畔美術館に移動、常設。
砂澤ビッキ展@神奈川県美葉山館がよかった。
吉増剛造さんイベント@NADiff a/p/a/r/t
ニース、アンティーブ、パリに旅行。アニエスのアパートに滞在。ギャラリードゥジュール、アブデルカデール・ベンチャマと打ち合わせ、アニエスのオフィスの壁画描き足し。ピカソとの思い出話など聞く。
ジュリアン・ランゲンドルフとセッション。

7月
ヴェネチア滞在
Palazzo Fortunyの「INTUITION」展がよかった。
7/5 小沢剛さんの依頼で、芸大でドローイングの授業。10年ぶりに取手に行く。
7/14 『Drawing Tube vol.01 Archive』鈴木ヒラク ドローイング・パフォーマンス ゲスト:吉増剛造を刊行。
石川九楊さんと、上野の森美術館にて「文字の起源」をテーマに対談。合計3回お会いする。後に左右社から出版される本には収録されなかったが、「銀」や「光と影の反転」についての話が興味深かった。個人的には、「かく」ことを路上で考え始めた頃から20年近く、石川九楊の書に刺激を受けてきたたけれど、まさか本人と対談することになるとは思ってもいなかった。33歳の年齢差がありながら、正面から向き合ってくれた石川九楊氏に感謝。非常に励みにもなった。
村田峰紀がアトリエに来る。
家族で三浦半島を旅行。

8月
娘の次に手足口病にかかり、二週間ほど苦しむ。
吉増剛造さんから詩が届く。自分の名前が入っている。そして光画、突中描画という言葉をいただく。
8/4 ギャラリーハシモト(東京)にて、村田峰紀とセッション。記録を撮ってくれた杉本くんがよかった。峰紀とは今年数えきれないほど会っている気がする。
家族で大分旅行。現地でアトリエを借りて、制作に励む。娘が2歳になる。
札幌を視察。吉増剛造展@北大が素晴らしかった。
また、市原湖畔美術館のラップミュージアム展がよかった。

9月
札幌国際芸術祭にて、吉増剛造さんと2回目のパフォーマンス。非常に難しかったが、実験として意義はあった。吉増さんから「一番深いところに届いたよ」と言葉をいただいた。同時に「孤独」ということもおっしゃっていた。石狩シーツという詩のタイトル、吉増さんの白いシャツ、その連想から布の繊維と描く行為の関係性について考えた。この問いは、後に今福龍太さんを召喚する。芸術祭は梅田哲也、毛利悠子、堀尾寛太、さわひらき、国松希根太、石川直樹、中崎透、同世代の作家それぞれの作品に心が動いた。余市町にある「フゴッペ洞窟」の洞窟画を見て帰る。
9/7よりアートラボはしもとにて、初のキャンバス作品(11m)を描き始める。自分のかく行為の中に、初めて「織る」とか「編む」という概念が入ってきた。神宮に撮影してもらう。
9/13 ブラジルからアンドレアが来る
9/15 ポーランドからプシャメクとダニエラが来る
9/25 NYから来たハトリミホさんと電話でずっと話していた。NEW OPTIMISMという概念について教えてもらう。その延長でDommuneに出演。宇川さんに10年ぶりに会う。
9/27 ハトリミホさんとKATA(恵比寿)でセッション。

10月
10/19 アーツ前橋にてグループ展「ヒツクリコ ガツクリコ ことばの生まれる場所」。11mのキャンバスをはじめ、平面、リフレクター、映像など久しぶりに大規模なインスタレーションを行う。
高崎のrin art associationにて特別展示。久しぶりにアスファルトのフロッタージュを作品にし、なぞる行為について考えた。
10/21 五島美術館副館長の名児耶明氏、アーツ前橋館長の住友文彦氏と前橋文学館で鼎談。
10/24 Abdelkader Benchammaが来日。空港まで迎えに行き、Tokyo Arts and Spaceまで送る。
10/27 アニエスべー銀座店で、「POINT TO LINE presents Abdbelkader Benchamma」カデールとコラボレーションによる壁画発表。クリスと3名でトーク。10人以上キュレーターが来る。NYからボニー・マランカも来ていた。
初めて娘をコンサートに連れていく。
展覧会は伊藤存さんの個展@ヤーギンズ、安藤忠雄「挑戦」@国立新美術館がよかった。

11月
カデールと国立科学博物館を視察。3週間とにかくカデールと話し、描き、酒を飲み、色んな人に会い、また話し、描き続ける。洞窟の中を二人で旅するような日々。
11/5 ボニーからエーテル・アドナンのテキストをもらう。
11/12 Drawing Tube vol.3 カデールとドローイングトーク@TOKAS
カデールがフランスに帰った翌日から家族で群馬旅行。原田さんにお世話になった。

12月
12/9 今福龍太さんとライブドローイングと対談@アーツ前橋 「舟」と「骨」について。キーワード:石、棒、道の終わり、風、珊瑚、島、多孔質、チューブ、ミメーシス(模倣)、井上有一、宮沢賢治、歌、ベンヤミン、内臓、星座、舞踏、洞窟壁画、舐める、粘膜、放射、収斂、葉、植物、飛沫、石川九楊、墨、影、反転、薄墨色、謎、中上健次、がらんどう、空、鳥、透き通る、透過性、重複、銀色、スピリット、インスピレーション、書く、掻く、欠く、描く、ローセキ、粘土板、加算的、減算的、積算的、構築的、建築的、積む、摘む、剪む、琥珀、松脂、虫。
ライブドローイングとトークを同じ日に行い、翌日から数日間は廃人のようになる。足利市立美術館での吉増剛造展を見て、足利に一泊する。
グループ展『アートのなぞなぞー高橋コレクション展』@静岡県立美術館に出品
ボスコ・ソディに会う。
昨年対談した西野壮平くんのアトリエ@西伊豆に滞在し、一緒に絵を描いたり地元のスナックに行く。
ライブはテニスコーツ@VACANTがよかった。映画はアレハンドロ・ホドロフスキーの「エンドレスポエトリー」がよかった。

2017/05/03

楕円について

点が線の夢を見る / Do Dots Dream of Lines from Hiraku Suzuki on Vimeo.

二つの隔たれた点が、その間に存在するかもしれない線を夢見ている時、周囲には楕円の空間が生まれる。自分の制作において、楕円は「巡回」と「放射」が組み合わされた形。目の形とも、銀河の形とも呼べる。それは時空間の把握におけるひとつの原型である。

When the two distant dots dream of a possible line in between, an oval space occurs around them. Oval is a combination of “round space and radiant space“ (A.Leroi-Gourhan, 1964-1965), and it can be called the form of eyes and galaxy. It is a model for perception of time and space.

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「まわりの世界を知覚するのは、二つの方法でなされる。一つは動的で、空間を意識しながら踏破することであり、もう一つは静的で、未知の限界まで薄れながら拡がっていく輪を、自分は動かずに、まわりに次々と描くことである。一方は、巡回する道筋にそって世界像をあたえてくれる。もう一方は、二つの対立する表面、地平線で一つになる空と地表のなかで像を統合する。」
(A・ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』 荒木亨訳、新潮社)
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大分市道中央通りの両端をつなぐ、全長約30mの地下道。4つの入り口から階段を降りると、全面シルバーの壁や天井に、巨大な黒の楕円が配置された、洞窟のような空間が広がります。そこには、路上の交通標識などにも用いられるリフレクター(反射板)や、シルバーのインクによって描かれた、星座のような無数の未知なる記号たちが、光を反射しています。
この作品は、地上の場所に帰属するのではなく、隔たれた地上の点と点をつなぐ地中のチューブです。この中を人々が行き来することによって、星と星が交信するように、こちら側と向こう側/闇と光/過去と未来といった対極がつながれ、時空間に新たな線が生成されます。

An subterranean passage with a length of approximately 30m that connects two sides of a municipal road. Once you enter through any of the 4 entrances and descend down the stairs, you will find a large cavern like space entirely in silver with massive black ovals along the walls and ceiling. On these ovals, you will find numerous unknown constellation like signs that reflect the light, drawn with silver ink as well as reflectors that are generally used on items such as traffic signs.
As commuters pass through this tube, they are connected by two extremes like intercommunication of two stars that indicate the here and there/darkness and light/past and present, thus generating a new line within their routinely frequented time and space.


photo by Takashi Kubo ©2017 Hiraku Suzuki
photo by Takashi Kubo ©2017 Hiraku Suzuki
photo by Takashi Kubo ©2017 Hiraku Suzuki
photo by Takashi Kubo ©2017 Hiraku Suzuki
photo by Takashi Kubo ©2017 Hiraku Suzuki
photo by Takashi Kubo ©2017 Hiraku Suzuki